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千駄焚きの雨乞い

「きょうも駄目だなぁ・・」
降り注ぐ炎天の空をみあげて源蔵は額の汗を拭きながら呟いた。
早めの梅雨が明けて以来、二ケ月もの日照が続いた。川の水位は底の岩肌を見せ、灌漑用の貯水池も茶褐色の窪地となり、田畑の葉は萎えて色を失っている。
              里山1

今年も村の長の指図のもとに、あらゆる雨乞いの術もためしてみた。
この国は世界平均(970ミリ)の倍(1750ミリ)もの降雨を誇るが、急勾配の山地が多く斜面に降った雨も殆どは急峻な短い河川を走って海洋に流出してしまう河状係数の高い河川がほとんどである。(河状係数とは降雨時の最大流量と旱魃時の最小流量の比率のこと)

大雨となれば洪水も起きやすいが、まだ氾濫には堤防を高くしたり、河道をつけ替えたり、溢れる雨水を遊水地などに引き込むなど治水の知恵を活かせるが、日照りとなるともうお天道様に祈るしか方法はない。

農業は、天気商売でもある。古来より雨乞いとして様々な呪術が行われていた。
水神さまに種水を奉納したり、また神楽や飾り馬を奉納したり、石や岩を水神として拝んだり、雷鳴に似せようと大きな太鼓を打ち鳴らしたりもしたという。
共同呪願としての雨乞いには、陰陽師や修験道や密教の僧に降雨の読経をあげてもらったりした。

民間の伝承では、水源となる水辺に石や汚物を投げこんだり、馬の遺骨を放り込んだりするものもある。水神を怒らせると雨を降らせるからだと言う。
              火2

今年は色々手を尽くしたが今ひとつ成果は上がっていない。そこで村の長が他所で聞きつけてきた雨乞いに効があるという「千駄焚き」を村でやるという。

小高い丘や地域の一番高い山に松明を抱えて登り、薪きや藁など集め火を焚くというものだ。大きな火をみると水神さまが驚いて火を消すために雨をふらせるのだという。実際、こうした「千駄焚き」の雨乞いの風俗は全国にあったようだ。

現代の気象学的には高い山に登って火をたくと上昇気流を起して雲が発生するので、規模はともかく、まんざら非科学的な迷信ともいえない。これに呪者の祈祷と併せるといかにも霊験があったかに思われたのでしょうか。

しかし呪術や民俗にも、その元となる理屈があったようである。難しい説明は省いて方便としての伝承と様子を変えてはいるのだが・・
易経では「満と欠ける」という循環の法則により、水を得るには、火を強め炎上させることで火は水を生むものとされた。海洋で強く温められた海面は強い上昇気流を発生させ高くあがった蒸気は、上空で冷却され積乱雲となり雨をふらすという現象にも相応しているようだ。

火の造形でもある山に登り共同体で天にも昇る火を焚いて、その結果として水を呼ぶという考えかたと相似している。陰陽はそれが満ちたときに互いを生じさせるというものだ。八卦であらわすと地来復(冬至)と天風姤(夏至)の卦となる。

陰が極まった坤為地の後に一陽が生じる「地来腹」の冬至と、陽が極まった乾為天のあとに一陰が生じる「天風姤」の夏至の卦である。太極図がしめすとおりだ。

陰陽をそれぞれ「水と火」とみれば、水の祖は火の極まったところに生じることになる。炎上する炎は、山など高いところで火を焚くことである「千駄焚き」のことにちがいない。
             上げ馬2

 三重県桑名市、多度神社では5月5日に祭礼として馬を高いところに駆け昇らせる上げ馬神事などもあり農作の豊凶を占うとあるが、馬は「午」であり火そのものである。
五月五日は旧暦で午月午の日に重なる、火と火が重なる「炎」の日に上げ馬を行うことは、豊作を願った雨乞いの一種だったであろう。

午を表す卦は、陽(火)爻が5つに陰(水)爻がひとつの卦となっており、火が強まり陽気が極まり、一陰(水)が生じる。五陽一陰の「天風姤」の卦を示すものである。
水源に岩や石を投げ入れるというのは、岩、石硬いものは金気であり、五行相生の「金生水」となる。水神として祀るのはそのためであり、怒らせるというのは分かりやすい方便だろう。

黒馬を奉納するのは、黒は玄(くろ)であり水であり日照の午(火)を相剋して雨をもたらす祈願となる。
鳥栖市では、陰陽石を川にもちこみ主婦たちが水をかけて雨乞いしたとある。伊万里市松浦地区では牛石を酒やスルメで洗うといい。山麓の地域では・・・松明を点けて山にのぼり「センバダキ」を行うという。「千駄焚き」のことのようだ。

源蔵は、己の名が水に関わる名前であるのを心得ている。村のリーダーとしていつも雨乞いの祈願の先導にたたされるのは因縁と承知していた。

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