FC2ブログ

龍の消えた街

警報音が鳴っている・・・・・・。夕暮の迫る山あいより、赤い点滅を繰り返しながら気味悪い音を響かせていた。

 「龍が来るぞ!」
 少年は叫んだ。

間もなく、山麓のぽっかりと空いた洞窟から、闇を照らす巨大な蛇のような怪物が千メートルくらい先まで光を射し、身体を大きくうねらせて龍穴を滑り出てきた。

グォーッ・・・地面を揺らしながら大きな音が襲(おそ)いかかる。

               SL.jpg

大地より湧き上がるように、黒い雲を一面に吐き散らし、小さな街をひと呑みにする勢いで向かってきた。
 巨体を大きく捻り、前方に眼を燿かせて翔んでくる。

 貌の両眼は真っ赤に光輝いて、鰓から炎を吹き出し、巨体の周囲には黒雲を引き連れていた。
―――食い入るように目を瞠った。

               D51Ⅱ

 龍は一日何度か翻った。

十数分、そこに止ると、水と黒い餌を頬張りまた、あの山の穴に昇っていく。

 龍は、古来より天地の間を飛び交って天命を占うとされた。五本爪の龍は皇帝のみに許され、天皇の御衣である袞冕(こんべん)も五本爪の龍が縫取られている。八卦の五爻は君主の位を、九星図の五黄土星は中央を示すものらしい。


壁のように塞がり、連なる山のうねりは龍脈と称され、地の底から湧き上がる運気の強さを表すといわれていた。この気の流れを知り、気の集まる処「龍穴」を知ることが力を得ることだった。

                  SL5.jpg

 古代の君主は、これを知り、風水術を施して、四神相応の適地を都として定めたという。
北に玄武、東に清龍、南に朱雀、西に白虎・・・方位を守る四神の依る処が妙地とされた。

 子供の頃、あの龍に乗って昇っていくことを考えていた。
龍穴を通って、永い間考えていた龍の棲むという大きな都会に出ていくと決めていた。

 毎日、あの穴を眺めていた。
                 龍

数十メートルはある黒い巨体の動きを、光る鱗のような模様を輝かせ、天地に音を轟かせて雲をまき散らしながら飛ぶ鉄の生き物を、ずうっと観察した。
・・・・・・
二十数年の月日が流れた―――。

大都市に出て・・・振り返ることもなく働き、漸く故郷を想うゆとりもできて・・・・・・
 今、あの街に帰ってみた。

 しかしそこにはもう、龍は棲んでいなかった。
               
 錆び付いた鉄路は今・・・ローカル線と呼ばれ、箱型の小さな乗り物が枕木の間の雑草の上を行き交うだけになった。幹線道路も大きく迂回し、新しい家並みや大型ショッピング施設は郊外に移って、旧市街に人の姿はまばらになっている。

                 SL橋

 「龍が消えてがら・・ずっとこうだス・・」
 腰の曲がった老人は、訛りを含んだ声で天を仰いだ。

 ・・・・・・

 今でも、龍を待ち望んでいる「撮り鉄」と呼ばれる多くの人々がいる。だがD-51と呼ばれるSLは、時おり観光の目玉として、カメラの放列の前に往時の姿を見せるだけの街になっていた。

スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

jyoumonjn                                      K.やまだ       in SAGA 

Author:jyoumonjn        K.やまだ in SAGA 
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新トラックバック
月別アーカイブ
月別アーカイブ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ポインタ・スイッチ




最新記事
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR